さまざまな価格設定法
これまで価格の重要性や価格設定に必要な観点についてお話しました。
ここではそれらを念頭に置き、価格の設定方法についてお話していきます。
価格設定法は実にさまざまあり、戦略や方針によって異なる価格設定法を選択します。
以前挙げた価格設定法にコスト・プラス法という、生産コストに一定の利益を上乗せした価格設定法があります。
コスト・プラス法は得たい利益さえ決めれば、製品当たりの費用を算出することで決定できる簡易な設定法です。
簡易ではありますが、あまり戦略的な価格設定とはいえません。
戦略的に価格設定を行う際は、得たい利益から一意に決めるのではなく、顧客視点や競合状況なども加味して考える必要があります。
以下にさまざまな価格設定法を紹介します。ここで自社の戦略や方針、目的に適した価格設定法を見つけてください。
原価志向の価格設定法
原価志向の価格設定法は、価格をコストに着目して設定する方法です。
製品の販売はコストの回収も目的に含まれるため、価格設定でコストを重視することは当然でもあります。
しかし、原価志向は価格設定が用意な反面、顧客を考慮に入れていないため、顧客が買ってもよいと考えている価格と乖離してしまうリスクがあります。
顧客が支払っても問題ない価格より高い価格を提示すれば購買には至りません。また、反対に低い価格を提示すればより多くの利益を得る機会を失ってしまいます。
1.コスト・プラス法
原価志向の代表的な価格設定法です。
製品を製造から販売するまでにかかったコストに、一定の利益を上乗せして価格を設定します。
コストと得たい利益が決定すれば価格が決まるため、容易に価格が設定できます。
2.マーク・アップ法
仕入原価に一定の率で利益を上乗せする(マーク・アップ)する方法です。
流通業界でよく用いられる方法です。「六掛け」という方法が広く使われております。
仕入れ値の定価に対する割合を掛率といい、六掛けとは定価の六割が仕入れ値になることをいいます。
つまり、利益は定価の四割となります。
数字は自由に決定でき、七掛けなら定価の七割が仕入れ値となります。
3.ターゲット・リターン法
得たい投資収益率(リターン)から価格を設定します。以下に計算例を示します。
100万円を投じて、製品Xを100個販売します。得たいリターンが1割だとすると、
100万円 × 1.1 = 110万円
110万円を売上なければなりません。
製品Xは100個なので、売上110万円を上げるには
110万円 ÷ 100個 = 1.1万円/個
一個当たり1.1万円で販売しなければなりません。
よって価格は1.1万円となります。
需要志向の価格設定法
消費者が知覚する価値に基準を置いて価格を設定する方法です。原価志向と異なり、コストよりも消費者に焦点を当てます。
1.知覚価値法
消費者が製品にどれだけの価値を知覚しているかに基づいて価格を設定する方法です。
マーケティング・リサーチなどによって売れる価格帯を発見して、その価格帯で価格設定する方法です。
リサーチによって売れる価格帯が判明したら、需要の価格弾力性も加味して、最も売れると思われる価格を設定します。
なお、売れる価格帯市場に流通している代替品や類似品の価格からでも類推することができます。
2.差別価格法
セグメントごとに価格を設定する方法です。
例えば、電車の運賃や遊園地・博物館などの入場料は大人と子供で料金が異なります。
休日料金や深夜料金のように時間帯によって需要が変わるのに応じて料金が異なります。
ソフトウェアやインターネットのサービスで利用者の99%の無料版と1%の有料版といったビジネスモデル。
これらは全て差別価格法にあたります。
差別価格法は同一の商品あるいは原価があまり変わらないほぼ同じ商品を異なるセグメントに向けて販売する場合に有効な方法です。
競争志向の価格設定
製品自体にあまり差別化できる要素がない場合、競合製品の価格を反映した価格設定を取ります。
ただし、価格競争を起こしやすい設定法であり、価格競争は最終的な勝者ですらあまり旨味のない競争状況なため避けたい事象です。
そのため、マーケターは価格のみの差別化から脱却する方法を常に模索しなければなりません。
1.入札
請負契約の受注のように、売り手と買い手の交渉で価格が決まらない場合や市場メカニズムで価格が決まらない場合に用いられます。
売り手が価格を提示し、買い手の入札によって価格が決まります。
買い手は複数ある売り手から最も安い価格で提供する売り手を探すことが可能です。
ただし、買い手は純粋に価格のみで決定せず、売り手がどのような価値を提供できるのかを考慮しないと「安物買いの銭失い」になってしまいます。
2.実勢価格
競合や業界の価格支配力を持つ企業(プライス・リーダー)の動向を念頭に置いて価格を設定する方法です。
価格設定の基準が自社でなく、他社にあります。
プライス・リーダーより高い、低い、あるいは同じ価格に設定するというように、通常はプライス・リーダーに基準を置く形で価格を決定します。
プライスリーダーが不在で消費者が価格に敏感に反応する場合は、競合よりも低い価格を設定するだけで大きな需要が見込めます。
ただし、価格で勝ち取った顧客は価格で取り返される傾向があり、価格競争にもなりやすいです。
プライスリーダーの存在というのは価格の競争状況を安定させるのに一役買っているといえます。