マーケターの思索〜使えるマーケティング情報サイト〜

 

複雑系で見るビジネス

 

「複雑系」というものをご存知でしょうか?

 

ご存知ない方は、言葉通り何か「複雑」なものをイメージしているかと思います。その通り「複雑」ではあるのですが。

 

「カオス」や「フラクタル」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これらは複雑系と関連がある分野です(ここではこれらの解説は行いません)。

 

さて、なぜ私が複雑系の話をしようとしたのかというと、複雑系がビジネスに役立てるからです。複雑系とビジネスの関係を見る前に、複雑系についてお話します。

 

複雑系は定義するのも難しいものです。扱っている対象が「複雑」であれば、定義する対象も「複雑」なのです。

 

「複雑なものが複雑系」であるというのは、定義になっていません。「美しい女性は美女である」のような同語反復のように、何も説明がついていません。

 

「単純でないものが複雑系である」というような何かの否定は対象を正確に定義できていません。

 

複雑系の定義

複雑系は「よくわからない」ものなのですが、サンタフェ研究所のキャスティが定義した複雑系の特徴をご紹介します。

 

 1.複雑系モデルを構成している要素(エージェントと言う)の数は、多くもなく、少なくもない(中程度)。

 

 2.エージェントは知性を持っている。つまり、各エージェントは行動を知的に決定している。

 

 3.エージェントは局所的な情報に基づいて相互作用する。エージェント完全な情報を持っていおらず、限られた情報をもとに行動する。

 

これが、ビジネスの世界では、私達人間がエージェントです。企業側から見れば、市場の消費者がエージェントとなります。

 

政治や経済の専門家でも今後の動向は予想できないのは、社会全体が複雑系となっているからです。エージェントの行動を予測すれば、社会全体の動きが把握できるというわけにはならないのです。

 

エージェント個人個人の行動が全体モデルの動向を必ずしも反映しないという特徴があるため、時代の先読みは非常に難しいのです。

 

こうした先の見えない不安が募り、複雑系を理解すれば社会全体を理解できるのではないかという期待を寄せられました。

 

社会は複雑系である

市場や社会は複雑系であり、経済学のような機械的な分析はできません。

 

つまり、経済モデルや数式がどれほど複雑(複雑系という意味ではありません)であろうと、ある値を入力すれば必ず決まった値が出力されますが、実際には数式通りに制御できません。

 

経済学では世の中は機械であり、経済の動向はどれほど複雑であろうと本質的には機械的に制御可能だと考えています。

 

そのモデルさえ紐解けば、あるボタンを押すと景気が上向くとか、ある数値を入力すると物価が下がるとか一つの決まった結果が得られると考えています。

 

しかし現実に人間社会は機械ではなく、個々人の複雑な相互作用の集合した有機体です。

 

伝統的な経済学は、人は他人からの影響を受けることや個人の嗜好の違いを認めていません。例えば、ミクロ経済学には選好には推移性という性質があると考えています。

 

ミカンよりリンゴが好きで、リンゴよりメロンが好きであるなら、ミカンとメロンを比べた場合、必ずメロンの方が好きであるという性質を持ちます。

 

そして、このような選好は全ての人間に当てはまることを前提としています。もちろん、実際は好みはときどきに変わりますよね。

 

また、人は必ず経済的に合理的な決断を下すという経済人モデルを前提としています。

 

こうした考えは世の中の部分的な見方では正しいかもしれませんが、複雑系である社会ではわずかな変化が大きく結果を変えてしまうため、経済予測などモデルや数式による分析が大きく外れてしまうのです。

 

例えば、VHSとベータのように劣った技術が優れた技術を駆逐する現象を経済学では予測できないのです(“不可解な”現象が確認された後、言い訳のようにさまざまな説明が述べられることは往々にしてありますが)。

 

エージェントの相互作用を考えると、あなたの友人からVHSを購入して満足しているという話を聞いたら、あなたもVHSを購入する可能性は高まるということがわかります。実体験と照らし合わせると良くわかると思います。

 

しかし、経済人モデルでは、性能の劣るVHSを購入する理由は説明がつきません。

 

個人の選択が、後に行動を起こす他者の選択に影響を与えることを経済学では認めておらず、複雑系の世界ではこの変化が見過ごせない変化を起こしてしまうため、経済学と現実が大きく乖離するのです。

 

エージェントが他のエージェントの行動に影響を与えるという複雑系で社会を見ると、従来の経済学よりも市場や社会の動向に説明がつきます。

 

局所的なごく小さな変化が波及して、全体に大きな変化を起こす効果があることを認めると、それは同時に予測ができないということを認めることになります。

 

私達が、この複雑系な市場でどのような選択や行動が正しいのか予測はつきません。これまで、長々と述べたものの複雑系の社会ではお決まりの対処法というものは存在しないのです。

 

一つだけ私があなたに言えることは、ビジネスにおけるあなたの行動の正しさ、あるいは誤りを保証してくれるものは存在しないということでしょう。


トップページ はじめに お問い合わせ ブログ