誰も商品なんか欲しくない
顧客はベネフィットを買う
あなたが売っているのは何でしょうか? あるいは、これから売るのは何でしょうか?
ビジネスの世界にいる以上、あなたは何かしら提供するものを保有しています。
それは、有形の製品、無形のサービスといった、何らかの形でパッケージ化した商品です。
そして、消費者はその商品を購入することで満足を得て、その対価として企業は収益を得ます。
マーケティングの役割は、このプロセスを円滑にかつ効率的に回すことです。
さて、商品を販売するさいに考えるべきは、「人々は何を買っているのか」です。
そもそも消費者は何を買っているのか、これを知らなければモノを売ることはできません。
顧客は何を買っているのか。実際に取引しているものは商品です。
私たちは商品を売っており、お客様は商品を買っています。
そのため、商品そのものを売り込むべきと考えてしまいます。
しかし、実際売るべきは商品ではありません。
誰も、あなたの商品など欲しくないのです。買いたいとも思っていませんし、商品にお金など払いたくないとさえ思っています。
本当に顧客が欲しいと思っているのは、あなたの商品ではなく、あなたの提供する解決策です。
すなわち、ベネフィットこそ本当に売るべきものです。
例えば、目の前のお客様は化粧品を買うから、そのお客様は化粧品が欲しいと思ってしまいます。
しかし、真に欲しいものは本当に化粧品でしょうか?
本当に手に入れたいと思っているのは、その化粧品によって得られる「美しさ」です。
保険を買う人は、保険が欲しいのではないのです。
保険によって、「安心」が得られるから保険を買うのです。
実際に取引しているのは商品であっても、本当に欲しいと思っているのは、解決策です。
顧客は解決策にお金を支払っているため、別の方法があるならそれはそれで一向に構わず、代替策に飛びつきます。
商品を商品として売っている間は、自分が本当は何を提供しているか、顧客は何を買っているか真に理解はできないでしょう。
また、たとえベネフィットを売っているとしても、顧客の悩んでいるものと合致していなければ無意味です。
そのようなとき、顧客の問題と比べれば、あなたの提供するベネフィットは些細なことです。見向きもされません。
商品ありきで販売するのではなく、顧客の抱える問題から販売を始めます。
顧客は本当に“ドリル”が欲しいのか?
「人々は4分の1インチのドリルが欲しいのではない。4分の1インチの穴が欲しいのだ」とはセオドア・レビット(ハーバード大教授)の言葉ですが、まさしくその言葉通りです。
「ドリルではなく、穴を売れ」とも言われているように、消費者は商品が欲しいのではなく、結果が欲しいのです。
空けたい大きさだけ空けられるのであれば、何もドリルでなくても良いのです。
4分の1インチの穴が必要だったため、穴を空ける手段としてドリルを買い求めたのです。
したがって、ドリルが欲しいのではなく、(ドリルで空けられる)穴が欲しいのです。
ですが、実際に来るお客様は「ドリルが欲しい」と言うから、欲しいモノはドリルなんだと勘違いしてしまうのですね。
ですので何の商品が欲しいのか、ではなく何で悩んでいるのかを聞くべきなのです。
ドリルを買いに来たからといってドリルを勧める営業トークから始めるのではなく、なぜドリルが必要なのかからヒアリングを始めなければなりません。
このドリルの例えは有名で、正しい営業の役割を理解させるために次のようなケーススタディでドリルの話が用いられています。
【パターン1:営業1の場合】
お客様:「すみません。ドリルを探しているんですけど……」
営業1:「ドリルですね。当店には3種類のドリルがございます。
まずこちらのA社のドリルは値段は少々張りますが、薄い鉄板にも穴を空けられるパワーがあり、穴の大きさも幅広く選択できます!
続いてB社ですが、A社にはパワーは劣りますが、日曜大工のために買って行かれるお客様が大勢いらっしゃいます。
最後のC社のドリルですが、電池式でコードがかさばらず手軽に使えますよ。
今なら、このC社のドリルがお買い得品ですが、いかがなさいますか?」
お客様:「……(結局どんなドリルがいいかわからないなぁ)少し考えさせてください」
【パターン2:営業2の場合】
お客様:「すみません。ドリルを探しているんですけど……」
営業2:「ドリルですね。少しお伺いしてもよろしいでしょうか?」
お客様:「はい」
営業2:「ドリルをお探しとのことですが、どのようなことでお使いになりますか?」
お客様:「実は、子どもの工作で木材に穴を空けてあげなきゃいけないんですよ」
営業2:「具体的には、どのような穴でしょうか?」
お客様:「そこの板くらいの大きさのベニヤ板に、5mmくらいの大きさの穴を、数枚の板に空けます」
営業2:「なるほど。……それでは、ドリルなのですが、工作を終えた以降のお使いの予定はございますか?」
お客様:「いえ、使う予定は特にありません」
営業2:「でしたら、当店でお子様の必要とされている穴を空けたベニヤを作成しましょうか?」
お客様:「えっ? いいんですか? では、お願いします」
これは、私が以前営業のセミナーで受けた2人の営業マンの例に少し手を加えたお客様とのやり取りです。
どちらの営業が顧客に喜ばれたのかというと明らかで、営業2です。営業1は、満足されるどころか買ってすらもらえていないでしょう。
営業1は訪問してきたお客様がドリルを探していると言ったため、このお客様はドリルを買い求めていると真に受けてしまい、ドリルの売り込みに終始していました。
結果、相手の話を聞かない強引な売り込みも相まって、大事なお客様が離れていってしまいました。
商品を求めた顧客は、商品が欲しい顧客だと勘違いしてしまった例です。
営業2は、そもそも何故ドリルが必要なのかをまず聞きました。
結果、ドリルの使い道は一時的なものであって、本来はドリルが欲しいわけではなく、数回だけ穴を空ける手段が欲しかったことがわかりました。
そのため、営業2はドリルの売り込みではなく、お客様が必要とするものを提案し、結果、販売に成功しました。
販売するものはドリルではないものの、見事お客様の問題の解決策を売ることができました。
この例えは、営業の話ですが、マーケターに無関係ではありません。
マーケティングは価値の交換に関わる全ての活動です。
相手の望むもの、ニーズを満たすものを提供してこそマーケティングなのです。
そのため、あなたは「商品」を売るのではなく、「ベネフィット」を売ることに努めるべきなのです。
顧客の悩みを解決する方法こそ、あなたが売るモノの本質です。