効果的なプロモーション戦略の設計・後半
5.予算の設定
カネは企業の持つ資源配分において常にシビアな問題です。
プロモーションにおいても、その限りではありません。やはり予算の意思決定は難しい問題です。
プロモーションにどれだけ支出するかは産業次第です。
BtoB業界はあまり広告を出さないため、プロモーション費用は少ないですが、化粧品業界はイメージ戦略のために莫大な費用を広告をはじめとしたプロモーションに費用をかけます。
それでは、予算の決定はどのような方法で行われるのか。
ここでは、代表的な4つの手法を紹介します。
・支出可能額法
プロモーションに支払える金額がプロモーション予算の上限となる設定方法です。
あらかじめプロモーションにいくら支払えるかを決定し、実行するプロモーション費用はその額を超えないように調整されます。
プロモーションが売上にどれだけ寄与するかを考慮していないため、プロモーションを投資と見ていない、長期的なプロモーション予算が立てにくいという問題点があります。
・売上高比較法
売上高、売上実績に応じて予算を設定します。
例えば、売上高が2割増えたら、予算も2割増えます。逆に売上高が減れば、予算も同じ比率分だけ減額されます。
要するに、企業のふところ具合に応じた予算配分です。
ただし、この方法にも問題点があります。
この予算設定法は、プロモーションの結果として売上があがるはずのところを、売上の結果がプロモーションを決定するという本来とは順序が逆なのです。
そのため、売上が落ち込んだときに、市場機会を発見したとしても十分な予算がおりない状況が起こります。
この方法もプロモーション予算を長期的な観点から設定することもできません。
結局、マーケティングは顧客のための活動であるのに、顧客を見ずに企業都合で動いてしまっていることが問題なのです。
・競争者対抗法
競合企業と同じだけのプロモーション費用を支出するという考え方です。
同じ費用ならプロモーション戦争を回避できるという考えから支持される予算設定法です。
ただし、同じ費用をかければ同等の効果を得られるという根拠も、本当にプロモーション戦争を回避できる根拠もありません。
財源、評判、戦略(標的視聴者やメッセージの内容)が異なる中で、予算だけを競合と同じにする妥当な理由がないということです。
・目標基準法
これまで、3つの予算設定法を紹介しましたが、どれもプロモーションにいくらかけるかという合理的な理由づけがされていません。
そこで、目標基準法では、目標達成のための費用を算出するというアプローチで、合理的に予算を設定します。
プロモーション目標を設定し、達成のための費用を算出し、その総額がプロモーション予算とする設定方法です。
目標基準法は次のステップで行われます。
・市場の何%の人にメッセージを届けたいか設定します(市場シェア目標)。
・メッセージが到達すると思われる市場比率を設定します。
・メッセージを認知し、製品を試用する見込み客の比率(試用率)を設定します。
・試用率1%当たりの広告露出回数を見積もります。
・標的人口1%に対し、1回の露出にかかる費用(GRP)を算出します。
・GRPに基づいて予算を決定します。
6.コミュニケーション・ミックスの決定
ここでは、コミュニケーション・ミックスとしていますが、『プロモーション・ミックス』と同義です。
コミュニケーション・ミックスには以下の5つの手法があります。
・広告
・販売促進(セールス・プロモーション)
・人的販売
・パブリシティとPR(Public Relations)
・ダイレクト・マーケティング
各手法については、また別の項で詳しく説明します。
このプロセスは、各手法の効果的な配分を決定するプロセスで、その配分は企業の直面している状況によって異なります。
コミュニケーション・ミックスの決定には以下の要素を考慮すべきです。
・製品市場のタイプ
・消費者の購買準備段階
・製品ライフサイクルの段階
・企業の市場地位
消費財と生産財を比較すると、消費財の方が広告に費用をかけ、生産財の方が人的販売に費用をかける傾向があります。
このように取り扱う製品が異なれば、どの手法により多く予算を費やすか異なります。
消費者は購買準備段階が進むほど、広告よりも人的販売の方が効果を発揮します。
これらの要素を考慮して、コミュニケーション・ミックス最適な配分の決定に取り組みます。
7.効果測定、モニタリング
打ち手は打ちっぱなしでは終わりません。
その効果を検証して、次のプロモーションに経験を活かさなければなりません。
果たしてメッセージは視聴者に届いているのか、記憶に残っているのか、どんなイメージを持ったのか、などメッセージが視聴者に及ぼした影響を測定する必要があります。
効果測定には、何人かの標的視聴者を選び、実際に質問して検証します。
質問の内容には次の例があります。
・メッセージに気づいたか(到達率)
・メッセージを覚えているか
・メッセージを何回見たか(接触頻度)
・メッセージのどの部分が印象に残ったか
・メッセージを見て感じたイメージは
・メッセージを受け取る前と後で、イメージは変化したか、またどう変化したか
また、質問する以外にも、何人が購入したか、気に入ったかなどのイメージだけでなく、行動に及ぼした影響も測定します。
全体の何割がメッセージを見て、さらに見た消費者の何割が行動したかといった効果を定量的に測定する必要があります。
その結果、例えば9割は認知していたが、その内の2割しか購入に至らなかったとなれば、到達率は高いものの行動には影響しなかったと言えます。
そして、視聴者の行動に影響するコミュニケーションに強化するという課題が見つかったということになります。
8.統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)の管理
統合型マーケティングコミュニケーション(IMC:Integrated Marketing Communication)とは、多種多様なコミュニケーション・チャネルを組み合わせて、それぞれのメッセージを統合し、明確で一貫した最大限のコミュニケーション効果を生み出すことです。
マーケティングは市場をマス市場から、多数のセグメントに分けてそれぞれのセグメントに異なるマーケティングでアプローチするようになりました。
コミュニケーションもまた、マーケティング戦略に応じて、個々のセグメントごとに異なるアプローチをとります。すなわちミックス(混合化)です。
現在、さまざまな方法で情報を取り入れることが可能になった消費者は、消費活動において賢くなりました。
そのため、個々のコミュニケーションのミックスではなく、それらを統合化し、あらゆるコミュニケーション対応を管理する仕組みづくりが必要となりました。
そこで、コミュニケーションは混合化から統合化へと動きを進めたのがIMCです。
IMCの詳細は、本項では省きます。