戦略的ポジショニングの構築
ポジショニングは戦略的に検討する必要があります。
マーケターは思いつきでポジションを作ることがポジショニングではなく、顧客にどういう価値を与えられるか、顧客からどう認識されるかをよく思い巡らせなければなりません。
ポジショニングを独特なコンセプトで決定する場合
まず、ポジショニングを決定するアプローチで、最も簡単に決まるのは製品自体が独特なコンセプトの基に製造された場合です。コンセプトをそのままポジショニングに使えば良いのです。
製品コンセプト自体が以前までの市場にない場合には極めて有効です。
ソニーの「ウォークマン」が良い例になります。ウォークマンは日本のイノベーション事例でも代表的な製品で、度々書籍で事例として挙げられています。
ウォークマンが市場に出た年、1979年には既にカセットプレイヤー、及びヘッドホンは世にありました。
よって、ただのオーディオプレイヤーやテープレコーダーとして販売しては他に埋もれてしまうことは明白です。
ちなみに、ウォークマンは録音機能がないため製品的には「録音不可な小型テープレコーダー」にカテゴリされます。
小さなテープレコーダーとして販売したら爆発的な売上は得られなかったでしょう。
しかし、ソニーはウォークマンを「音楽を持ち運びできる」というコンセプトで販売しました。
出歩いている間でも音楽を楽しめるという、これまでに無かった価値を提供することで、ただのテープレコーダーは競争の対象にもならない大ヒット製品に昇華しました。
ポジショニングをただの「テープレコーダー」ではなく「音楽を持ち運べる」という提供する価値に置いたことがウォークマンの成功した要因だと考えられます。
ウォークマンのように、市場にこれまでなかった用途やコンセプトの製品であるなら、コンセプトをそのまま明示すれば消費者から他とは違う新たな製品だと認識されます。
そのため、独特なコンセプトの製品の場合、ポジショニングはコンセプトを端的に表すことで確立できます。
知覚マップでポジショニングを決定する場合
顧客が数ある製品の中で、ある製品を購買することを決めた要因を購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)といいます。
同じカテゴリの製品が並んでいる中で、ある顧客は最も安い価格の製品を購入しました。
製品デザインや品質、価格、ブランドなど数ある中で、その顧客は「低価格」という購買決定要因によって購入を決めたということになります。
価格の低さに敏感に反応する顧客をターゲットにするのであれば「低価格」というポジショニングを取ることが良策でしょう。
購買決定要因を見極め、その要因を持つ顧客に強く訴求できるポジショニングを打つことが肝要です。
しかし、実際にはただ低価格なだけで購入を決めたわけではないかもしれません。その他の要因が少なくとも許容できる程度には満たされていたのでしょう。
例えば、イヤホンは今では100円ショップでも買えます。
もし価格のみに反応するなら100円ショップで購入するでしょう。家電量販店で最も安いイヤホンを購入するともっと高くなります。
ある程度の品質(この場合は音質)を求めて家電量販店で最も安いイヤホンを購入したのであれば、購買理由はただ「低価格」であればいいとはなりません。
実際にはさまざまな動機から購買を決定します。
ポジショニングを検討する際、消費者が購買を決定づける特徴を、2つに絞り込んで2軸のマップを作成すると視覚的にポジショニングの決定を補助できます。
このようなマップを知覚マップと呼びます。
以下はイヤホンの知覚マップの例です。軸は「価格」と「音質」です。
消費者が何を知覚するのかを戦略的に絞り込むことが、知覚マップを用いたポジショニング検討の課題です。
上の例では「価格」と「音質」の2軸に絞り込みましたが、それ以外にも「デザイン性」や「重量」などその他さまざまな要因があります。
特に、製品自体に機能が多い場合は軸も多くなるため、2軸に絞り込むことが難しいです。
2軸に絞るのは平面図上で表現するのに2つの特徴に絞り込んだ以外にも、人が特徴を知覚するのはせいぜい2つまでという性質があります。
2つ以上の特徴を見せようとすると、総花的になり逆に特徴がぼやけてしまい、消費者に知覚されなくなるため2個を超える特徴は多すぎるのです。
デジタルカメラの場合、購買決定要因は「価格」「デザイン」「重量」「機能」「画素数」「操作性」「容量」…などさまざまあります。
この場合、2軸の組み合わせが多く、2つに絞ることは難しいです。
自社が最も訴えたい特徴、あるいは競合がいない(少ない)マップ上空白の地帯を見つける方法として、「価格」対「画素数」、「操作性」対「デザイン」など複数のマップを見ることで、新たなポジショニングが発見できます。