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PEST分析│企業のコントロール外にある環境の分析

 

外部環境分析とは

 

市場機会を発見するには、企業はその内外の環境を分析する必要があります。

 

分析するべき環境は、企業のコントロールの外にある外部環境と企業組織内の内部環境、と大きく二つに分けられます。

 

環境を分析するさいにはフレームワークという、思考の枠組みとなるツールが用いられます。代表的なフレームワークに3Cというものがあります。

 

3Cとは企業の競争環境を3つのプレイヤーで表したフレームワークで、それぞれの頭文字がCとなることから3Cと呼ばれます。

 

3Cの内訳はそれぞれ、自社(Company)、競合(Competitor)、顧客あるいは市場(Customer)の3つです。

 

3Cは自社という内部環境と、競合と顧客という外部環境と、環境の内外の整合性を確認できる優れたフレームワークの一つとして重宝されています。

 

さて、外部環境を把握することはマーケティングに限らずビジネスにおいても非常に重要な活動です。

 

企業だけでなく、私たち個人は常に自分のコントロールできない環境に身を置き、外部の環境からさまざまな刺激や影響を受けながら活動しています。

 

企業活動とは自社資源を活かして、製品やサービスとった形で価値提供をして外部に働きかけることです。

 

環境とは常に変化し続けており、その変化を察知できずに流れに取り残されてしまえば企業は競合に後れをとり、生きていけなくなります。

 

そこで、マーケターは外部環境の変化を敏感に察知して新たな環境下で自社の強みを発揮できるよう柔軟に対処することが求められます。

 

しかし、外部環境分析は怠りやすい傾向にあります。組織内で行われる日々のオペレーションに忙殺されて、組織内の目の前の業務の方が重要と見なしてしまうことが原因と考えられます。

 

目先のルーチン業務にとらわれてしまい、長期的な視野を持たなくなることを計画のグレシャムの法則といい、外部環境の観察を怠るといつの間にか大きな時流に取り残されてしまうようなことに陥ってしまします。

 

ちなみに単にグレシャムの法則というと、「悪貨は良貨を駆逐する」ことを指します。

 

外部環境はさらにミクロとマクロに分かれ、ミクロは競合や市場といった外部の競争環境を指し、これらは3Cで分析されることが多いです。

 

マクロは競争環境をとりまく、もっと大きな環境を指します。

 

マクロ環境といったものの漠然とし過ぎていますが、マクロ環境ではPESTと呼ばれるフレームを用いることで、外部環境の要点を掴むことができます。

 

単に外部環境分析というとPEST分析を指すことが多いです。

 

PEST│外部環境分析の代表ツール

 

PESTとは外部環境の内、将来的に事業に何らかの影響を及ぼす要因を把握するフレームワークです。PESTはマクロ環境の4要素の頭文字であり、内訳は以下の通りです。

 

  • Politics(政治・法律的環境要因)
  • Economy(経済的環境要因)
  • Social(社会的環境要因)
  • Technology(技術的環境要因)

 

PESTの文字の並び順に意味はないため、黒死病とも呼ばれるかつて大流行した病気のペストを嫌い、STEPやPETS、SEPTemberなどと呼ぶこともあります。

 

外部環境の中には、この4要素のどれに当てはめるか判断が難しい要素があります。

 

例えば、賃金は経済的環境要因に含まれるのか、政治でも度々言及されるため政治的環境要因に含まれるのか、などの例です。

 

こういった分類が難しいものはどこでも出て来るものですが、フレームワークに共通する大切なことがあります。それは見落とさないことです。

 

PESTにすることで、何を観察すればいいのか判断が容易になることがこのフレームワークの用途であり、正確な分類が本来の目的ではありません。

 

賃金をEに入れるか、Pに入れるかという議論はPESTを考えるにあたり必要ないものです。カッチリと当てはめる必要はなく、融通がきくので柔軟に対処しましょう。

 

Politics(政治・法律的環境要因)
政治・法律的環境要因で見るべきは、自社が身を置く事業に関わる法律や税制、政府の意向、裁判の判例などです。

 

法は違反すれば取り締まりの対象になり、最悪逮捕されることもあるため、事業を行う際は注意を怠ることは許されません。

 

例えば、もしあなたがサプリメントの通販事業を始めたいのであれば、薬事法に違反しないように注意してキャッチコピーを書く必要があります。

 

「糖尿病が治る」などと健康食品を治療を目的とする効能を持つと広告してはいけません。「未承認医薬品の広告禁止」といった疑いなどで捕まる可能性があります。

 

消費税のような消費者の価格負担に大きく関わる税制の改正という、自社ではコントロールできない外部環境の変化も法律的環境要因に含まれます。

 

消費税増税により、消費者の購買動向が大きく変わればマーケティングも方針を変える必要がでるでしょう。

 

政府の意向により、雇用者の賃金上昇圧力が高まれば社内人事にも影響が出て結果、戦略にも大きな影響が出てきます。

 

一人当たりの賃金の上昇は固定費の上昇と同義なため、企業によっては従業員解雇による人事リストラを敢行するかもしれませんし、固定費の上昇分を価格(価格はマーケティング戦略上、大きな要素)に上乗せするかもしれません。

 

Economy(経済的環境要因)
政治は経済と密接に関係しているため、経済的環境要因は政治的環境要因にも含まれることもあります。

 

経済的環境要因で観察すべきは、景気、経済成長率、雇用情勢、株価・金利・為替、物価の変動、市場規模などです。

 

これらは新聞などで指標が発表されています。定量的な指標なため悪化、良化の判断が容易につきます。

 

為替の変動は海外との取引がある企業には直接響く、大きな問題でしょう。

 

輸入業者は通貨高(日本では円高ドル安)になれば、同じ金額でもより多くの製品を輸入できます。

 

例えば、百万円の資金があるとき、1$=100円のときは1万$分の製品を輸入でき、円高が進み1$=50円になれば2万$分の製品が輸入できるようになるというように円高が進むほど得になります。

 

輸出企業はその逆で、通貨安が進むほど儲けが増えます。

 

輸出入事業では為替の変動は企業の収益を変動させてしまい、国内事業よりも為替面で大きなリスクが伴います。そのため、先物やオプションなどで為替変動リスクを減少させるなどの方策を取ります。

 

市場規模はいわば業界(市場内の企業)全体の売上高です。

 

これから進出する市場が企業の規模に対して小さすぎれば魅力的な市場とは言えません。

 

そのため、利益が見込まれる十分な市場規模があるかを確認する必要があります。

 

また、現在の事業の市場規模が縮小している場合、その事業からの撤退も視野に入れるなど現在の規模とその推移(増加傾向か縮小傾向あるいは横ばい)を注視する必要があります。

 

Social(社会的環境要因)
社会的環境要因の確認するべき事項は、人口動態(総人口の変化、年齢構成、男女比など)、文化、宗教、自然環境などがあります。

 

人口動態などは、セグメンテーションでも用いられる市場の切り口です。

 

しかし、マクロ環境分析では市場の細分化が目的ではなく、環境の変化を察知するという大きな視点で人口動態を見る必要があります。

 

例えば、日本では団塊世代の定年退職により大量の労働人口が失われました。

 

人口ピラミッドを見ると若い世代は少なく労働人口はこれからも減りつづけるだろう、などといったことが確認、推測できます。

 

少子化が進むことにより教育事業の市場は縮小するだろうと推測したり、あるいは一人当たりの教育費を手厚くしてますます顧客を取り込む競争が激しくなるだろうと仮説を立てるなど、人口動態が直接影響を受ける事業は特に注目しなければなりません。

 

学習塾などでは、入学試験は毎年実施されるとはいえ、基本的に去年と同じ受験者(大学受験等の浪人生などを除き)はいないため、時期が過ぎれば既存の顧客を失うことになりますし、次の年に受験に望む新規顧客が現れます。

 

このような、人生の節目に需要ができるサービスは人口の年齢構成に特に注意して今後の戦略を立てます。

 

Technology(技術的環境要因)
技術的環境要因では技術革新や代替技術、特許などを確認します。

 

スマートフォンの普及により、インターネットへの接続は場所を選ばなく、より身近になりました。そのため、Webサイトは「スマホ対応」が迫られます。

 

ポータブルCDプレイヤーは、iPodをはじめとするmp3プレイヤーの登場により姿を消しました。

 

技術を強みにしている事業では、既存技術の代替となる技術によって市場の縮小どころか消滅することもあるため、技術の動向には目を離せません。

 

新市場の誕生や既存市場の衰退・消滅など兆候を見逃さないためにも、社内環境に浸かって外の技術動向を見逃してしまうのは避けたいところです。

 

PEST分析の注意点

PEST分析では着眼点があまりにも多く、自分の事業に関係ないと思われるものもあります。

 

しかし、PEST分析の目的は将来の変化や事業に影響を与える要因を見落とさないことにあるため、一見関係の見えない要因であっても影響があるかもしれない、と漏らさないことが重要です。

 

目的は予測の正確性ではなく、影響を与える要因の確認なため網羅性が求められます。

 

まずは、影響の良し悪しに関わらず、自社を取り巻く環境の変化をそれぞれピックアップすることからPEST分析が始まります。

 

以下の表をPEST分析のさいに参考までにお使いください。

 

PEST分析の確認事項の例


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