製品ラインのデザイン
製品戦略を考える際、個々の製品についてだけでなく、製品ラインや製品全体の設計にも取り組まなければなりません。
全体の売上に対する個々の製品が占める割合、個々の製品が取り組んでいる競合状況、製品ラインは拡充すべきか縮小すべきかなど、マーケターは製品ラインの設計により優位性を獲得しなければなりません。
マーケティングでは個々の製品単一だけでなく、幅と深さの2次元捉える製品ラインの最適化を図ります。
以下は、製品ラインの設計に当たり、考慮すべき要因です。
顧客ニーズごとに対応
マーケティングで最も重要な存在はもちろん顧客および、顧客ニーズです。
市場が成長していくと次第に、ニーズは多様になっていきます。
例えば自動車は、T型フォードが販売開始した1908年では自動車市場は黎明期でした。
当時は黒一色で大量生産され、安価で手に入る自動車の選択肢は一つしかありませんでした。
しかし、市場の成長につれて、車種もカラーバリエーションも増え、顧客の分化したニーズに対応できるようになりました。
市場が成熟すると、顧客はより深く多様な製品ラインを望むようになります。
したがって、製品ラインを拡大することは自然な流れでもあります。
製品ライン拡大の際は、既存ラインを改良したり、余剰設備の有効活用など既存のラインから相乗効果が得られるよう工夫しましょう。
製品ごとの収益性
製品個々の収益性は製品を維持するうえで重要な要素です。
収益性が低い場合、その製品を廃止することも考慮に入れます。
ただし、目玉商品や広告塔のように、製品そのものの収益性は低いものの、他の製品の収益性に大きく関連するのであれば、製品を維持する判断に落ち着くでしょう。
例えば、製品ラインの価格帯、高価格、低価格、両者の間の中間価格があるとします。
このとき、中間価格の製品は利益が確保できていなくても、低価格品から高価格品へスムーズに顧客の購買が移行できるなら、中間価格品を維持する意義は十分あります。
アップセルとダウンセルを考慮する
製品の上位版に顧客を移行させることをアップセルといいます。先の例は、低価格からいきなり高価格に移行するのではなく、間に中間価格の品を挟むことでスムーズなアップセルが図れるということを意味します。
製品ラインの設計にあたり、価格帯による製品の設計も考慮に入れます。
また、アップセルの反対にダウンセルという言葉も存在します。ダウンセルは、ある製品を購入できない顧客に対し、その製品の下位版の購入を促すことです。
例えば、高級ファッションブランドでは購買意欲は高いが購買力の低い若者への普及のためにセカンドラインというブランドを構築しています。ドルチェ&ガッバーナに対するD&Gがその一例です。
アップセル、ダウンセルは製品の値段を上げる、あるいは下げるという意味ではありません。
ダウンセルをただの値下げによる販売促進と勘違いしてしまわないよう注意してください。
幅広い価格帯の製品を用意することで、購買力の異なるさまざまな顧客層を取り込むことが可能になります。
クロスセルを促せるライン設計
クロスセルとは、製品と関連する製品の購入を促すことです。
最も有名なクロスセルはファストフードの「ご一緒にポテトはいかがでしょうか?」でしょう。他の製品を併せて購入させることで客単価を増やす方法としてよく用いられます。
製品ラインの設計にあたりクロスセルを考慮する際は、ある製品を製造したとき、その製品の関連製品も製造します。
例えばテレビを製造したら、その周辺機器、レコーダーやオーディオなどを製造します。
すると、テレビを購入した顧客に同メーカーの周辺機器の購入を促すことでクロスセルが望めます。
競合状況
製品ラインを考慮する際には、自社だけでなく競合他社のラインも知る必要があります。
ある製品分野で競合がすでに強力な地位を築いていた場合、同じ製品分野で勝負を挑むかどうかは企業の方針によって異なります。
しかし、勝負を挑むにせよ、避けるにせよ競合状況を知らなければ、有効な製品ラインの設計は立ち行きません。
カニバライゼーション
自社製品間の差異が消費者に知覚されない場合、異なる製品で同じ消費者を取りあう共食い現象が起きてしまいます。このような共食い現象をカニバライゼーションといいます。
カニバライゼーションを避けるためには、拡張し過ぎたラインの縮小や、製品間の差異を消費者に強く認知させることが必要です。
リスクの分散
「一」という数字はビジネスにおいて非常に危険な数字です。
一つの事業、一つの製品、一つのアイデアなど、一つだけに絞ることは、唯一つのものに命運を任せてしまうことを意味します。
一つの製品が企業の売上の大半を占めてしまうと、その製品の売上が急落した場合、大きな痛手を受けます。
企業は一つの製品のみに命運を任せないよう、市場動向に目を光らせながら、自社の強みを損なわないよう製品ラインの設計を注意深く行う必要があります。