コミュニケーション・プロセス・モデル|メッセージはどのように伝わるか
プロモーションは、伝える内容(何を)も重要ですが、伝えるタイミング(いつ)もまた重要な要素です。
仮にその製品を全く知らない顧客に対し、
「この製品はこんなにお買い得です!」
と製品の特長や魅力、価格に見合う価値を提供していると伝えたところで聞き入れてもらえません。
また、十分に製品の仕様について理解している顧客に対して、一から説明しはじめると不快に思われるでしょう。
プロモーション戦略では、顧客と適切なコミュニケーションをとることが第一です。
適切なコミュニケーションをとるためには、顧客の置かれている状況、顧客が購買にどこまで近づいているかを知って、状況に合わせたコミュニケーションを図らなければなりません。
これを考えるために用いられるのが、コミュニケーション・プロセス・モデルです。
コミュニケーション・プロセスのマクロなモデル
メッセージの発信者はメディアを介して、受信者にメッセージを送ります。
メッセージは
発信者 →(エンコーディング)→ メディア →(デコーディング)→ 受信者
というプロセスを辿ります。
発信者がメッセージをメディアに載せるときに、本来伝えたい意図を言語や画像などでメッセージ化することをエンコーディングといい、メディアからのメッセージを受信者が解釈することをデコーディングといいます。
メッセージを受け取った受信者はメッセージに「反応」し、発信者はその反応から「フィードバック」を得ます。
ただし、一連のプロセスには、コミュニケーションを妨げる他社のメッセージや雑多なメッセージといった「ノイズ」が割り込むことがあります。
以上がコミュニケーション・プロセスの大まかなモデルです。
メッセージを主体的に発信する企業は、到達すべき「受信者」を特定し、得たい「反応」を明確にしなければなりません。
なお、受信者に企業が伝えたいことが正確に伝わるとは限りませんし、メッセージをあるがままに受け取るとは限りません。
メッセージは必ず受信者独自のフィルターを通して解釈(デコーディング)されます。そのため、どのような反応を示すか、常にフィードバックが取れるよう環境を整えなければなりません。
このように受信者の解釈した伝達内容が発信者の意図したものと食い違うことを、エンコーディングとデコーディングの不一致などと呼びます。
話し相手に自分が意図しない受け止め方をされたことが誰しもあるかと思います。それと同様のことが「エンコーディングとデコーディングの不一致」なのです。
メッセージの受け止め方が人によって異なるのは知覚に3種類のプロセスがあるからです。
1.選択的注意
情報が氾濫していると言われている現代では、日々新たな情報が生まれ、人々は大量の情報にさらされています。
日本では出版年鑑によると2012年には新刊書籍が82,200点出版され、新聞は4,778万部発行されました。
Web上では全世界で毎年数十億ページ新たなページが開設されます。秒単位で何十と新たなページが生まれているのです。
なお、人が一日にさらされる広告メッセージは1,500以上とも言われています。
では実際、人は1,500以上のメッセージをちゃんと認識しているかというと、そうではありません。
自分が毎日目にしているメッセージは1,500もあるのか、と驚かれたことでしょう。実際は、ほとんどの情報は意識の外に置かれているのです。
人は目にしたところで認識しない、こうした中マーケターは何とかして相手の注意を引こうとと努力します。
消費者がどういった刺激に反応する傾向があるか、明らかになっている例を示します。
・現在のニーズに関係ある刺激
新聞の折込チラシで、エアコンが欲しいと思っている人にはエアコンのチラシに注目しますが、テレビのチラシには目を向ける可能性は低いです。
・予想していた刺激
エアコンを買いに家電量販店に行った消費者は、エアコンは目に留まりますが、他の家電にはあまり注意を払いません。
・通常より強い刺激
人は5%OFFのエアコンより30%OFFのエアコンに反応しがちです。
また、人は多くの情報を遮断しますが、メールや電話といった想定していなかった突然のオファーには影響を受けます。
そのため、選択的注意をいかにかいくぐって消費者に接触するかマーケターは日々模索します。
2.選択的歪曲
人は刺激に対し、先入観を持って解釈します。
食品のテストで、ブランド名を明かした場合とブランド名を隠した場合で味見をした結果。全く同じ食品であるにも関わらず意見が異なることが多々あります。
これは強力なブランドに対して、人は好ましい反応を示すからです。
「高いワインは美味い」ということですね。その感覚が本当に正しいかどうかはともかく、前提知識によって刺激に対する反応が変わります。
他にも、「高い商品は品質が良い」といった先入観も多くの人は有しています。
選択的歪曲を企業に有利に働かせるため、マーケターは強いブランド作りがミッションとなります。
3.選択的記憶
人は学習したメッセージのほとんどは忘れ去ってしまいます。
ただし、自分の信念や考えに親しいメッセージは記憶に残る傾向にあります。
気に入った製品や気になる製品はよく覚えていますが、たとえそれらと似通っている製品でも競合の製品については覚えていないものです。
選択的記憶も強力なブランドに有利に働きます。強力なブランドほど覚えられやすいですから、すんなりと情報を受け入れられます。
また当初は受け入れられなくとも、繰り返し発信することで記憶に残りやすくなります。
コミュニケーション・プロセスのミクロなモデル
ミクロモデルは、コミュニケーションに対しての消費者の反応を取り上げたモデルです。
主に、どのようなコミュニケーション段階を経て購買に至るか説明するモデルです。
ミクロ・モデルはいくつかあり、心理学・消費者行動のカテゴリー『AIDMA――購買までの心理的プロセス』で紹介したAIDMAモデルもその一つです。
AIDMAモデルの概要を説明すると、消費者は購買までに5段階すなわちAIDMAのステップを経るというものです。
AIDMAの各段階は以下です。
・Attention:製品の存在を認識する
・Interest:製品に興味を持つ
・Desire:製品を欲しいと思う
・Memory:製品を記憶にとどめる
・Action:製品を買う
消費者はこのステップを踏んで購買に至ると説明するのがAIDMAモデルです。なお、Mを除きAIDAモデルとする場合もあり、米国ではこちらが浸透しています。
ミクロモデルは他にもいくつかありますが、根底にあるのは人は購買の際「認知、情動、行動」の段階を経るということです。
AIDMAで言うと、Aが認知、IからMまでが情動、最後のAが行動に当たります。
仮に、全ての消費者がAIDMAの5段階を経て購買に至るとし、各段階で消費者が次の段階へと移行する確率が10%だとします(例えば、製品を認識している人が興味を持つ確率が10%となります)。
すると、購買に至る消費者の確率は0.1×0.1×0.1×0.1×0.1=0.00001。したがって一万人に一人が購買する確率になります。
各段階が消費者をにふるいにかけて落としていってしまうようなイメージです。
プロモーションを成功に導くためには、コミュニケーション・プロセスの各段階で消費者が離脱してしまわないよう、各段階で次の段階へ移行させる成功率を高める必要があります。
例えば、広告を出すにしてもコミュニケーション・プロセスの要点を押さえるべきです。
・「何を、誰に、いつ、どこで、どのように」を意識し、それぞれ適切に選択する。
・消費者の注目を集める広告作りを意識し、なおかつ意図したメッセージに関心を持たれるよう心がける。
・広告はターゲットとする消費者を適切に選ぶことはもちろん、消費者の製品理解度に応じた広告を打つ。
・消費者に購買する動機付けをする(動機がなければ人は行動しない)。
など押さえるべき点があります。