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価格が下がると欲しくなくなるものがある|価格効果・ギッフェン財

 

売上高を上げるために、商品の価格を下げて商品の売上個数を増やす方策は、おそらく最も一般的な手段だと思います。

 

本項では、そんな安易な値下げによる販促手法に異を唱えるために、価格が下がると財の消費が減るという”値下げの危険性”を経済学の観点から解説していきます。

 

価格を下げることは誰であっても避けたい施策だと思います。価格は下げたくないけれど、多くの人に買って欲しいと誰もが思いますが、いざ販促となると値下げに踏み切ってしまう企業が多いです。

 

確かにスーパーマーケットのような大型小売店ではEDLP(エブリデイ・ロープライス)政策という、日常的な低価格政策をとっており、その恩恵を受けて私たちは低価格で食料品や日用品を求め小売店へ訪れます。

 

このような日常の消費生活で低価格に敏感なためか、自分たちが販売側に立つと、高い価格をつけることに臆病になっているのかもしれません。

 

値下げに頼ろうとする方は、値段さえ下げれば多くの人が買ってくれるだろうとお考えなのでしょう。

 

実際に、値段にどれだけの消費者が反応するのかはわかりませんから、値下げ実行前から効果ナシと切り捨てることはできません。もしくは逆に、値段を高く設定してしまい購入してくれないのではと考えているのかもしれません。

 

値下げに踏み切る方は

 

 ・安ければ買ってくれるはずだろう
 ・高い価格を付けたら買ってくれないだろう

 

これらのどちらか、あるいは両方の心理に当てはまるでしょう。つまり、価格が低くなるほど消費量が増えると考えているわけです。

 

では、経済学では価格と消費量にはどのような関係があるのか、理論を見てみましょう。

 

価格効果

財の価格変化が消費に変化を与える効果を価格効果といいます。下図を見て下さい。

 

価格効果。財の価格変化が財の消費量に影響を与えます。

 

この図は横軸に財xの消費量縦軸に財yの消費量を表したグラフです。

 

線分ABおよびACを予算制約線といい、限られた予算を二つの財の消費に使ったとき、予算を使いきる場合に消費可能な二つの財の組み合わせを表示しています。

 

水色で表した曲線は無差別曲線といい、2財を消費したときに得られる満足度が同じになる組み合わせを結んだ曲線です。

 

日本酒2合と寿司10貫で得られる満足度が日本酒3合と寿司7貫で得られる満足度が同じなら、これらの組み合わせは同じ無差別曲線上にあるということになります。

 

経済学では、消費者が自身の満足度(効用といいます)を最大化する行動を取ることを前提とし、効用が最大化するときの財の組み合わせは無差別曲線と予算制約線が接する点で決まります。

 

予算制約線ABのとき、2財の最適な消費の組み合わせ、最適消費点は点Rです。

 

ここで、財xの価格が低下したとします。すると、財の価格低下により予算内で消費できる財の量は増加します。すなわち、予算制約線のx切片が右にシフトします。つまるグラフの点Bから点Cに移ります。

 

予算制約線がシフトしたことで、無差別曲線と接する点も変化しました。財xの価格が変化した後は、最適消費点は点Sとなります。

 

それでは、点Rと点Sのx座標を確認してください。財xの価格低下により最適消費点は点Rから点Sへとシフトしました。財xの消費量の変化に焦点を当てると、財xの価格低下により、消費量は増加していることがわかります。

 

これは、私たちの経験からも良く知っている、安くなれば消費量が増えるということを経済理論で説明しました。

 

ギッフェン財

通常、価格が低下すると、その財の消費量は増加します(悪くても不変)。しかし、例外で価格が下がると消費量も下がる財が経済理論上存在するのです。

 

ギッフェン財。価格の低下により、消費量が減少する特殊な財です。

 

上図を見て下さい。先の例と同様に財xの価格が低下して、最適消費点が点Sから点Rへとシフトしています。しかし、先の例とは違うところは無差別曲線と予算制約線の接点が異なっています。

 

この例ではなんと、財xの価格低下が、財xの消費の減少を引き起こしているのです。

 

つまり、安くなるといらなくなるのです。このような財をギッフェン財と言います(提唱した経済学者の名前に由来しています)。

 

このような効果の違いは財の性質によって起こります。

 

価格効果というのは、代替効果所得効果に分解できます。

 

代替効果とは、財の価格低下によって割安になった財の消費量を増やすという効果です。どのような財でも必ず代替効果というのは消費を増加させます。

 

問題は所得効果です。所得効果は財によって消費量の変化の寄与が大きく異なります。

 

所得効果とは、予算制約線のシフトにより、今までと同じ消費量では予算が余り、余った分を新たな消費に回す”実質的な所得の変化”によって生じる効果です。

 

価格効果とは代替効果による消費の増減と所得効果による消費の増減の和です。

 

所得効果は財によって振る舞いが異なり、所得の増加が財の消費を増加、不変、減少させます。価格効果の振る舞いの違いと、その財の分類を以下に表します。

 

※代替効果は常に消費を増加させます
 所得効果により消費が増加したとき、価格効果は大幅に増加 → 上級財
 所得効果により消費が不変のとき、価格効果は増加 → 中立財
 所得効果により消費が少し減少したとき、価格効果は微増 → 下級財
 所得効果の減少分が代替効果と等しいとき、価格効果は不変 → 下級財
 所得効果の減少分が代替効果の増加分を上回るとき → ギッフェン財

 

と分類できます。ギッフェン財とは下級財の一種で、代替効果の増加分を上回る所得効果の減少分によって、消費が減少しています。

 

安くなるほど、消費が減るということは、所得が増えれば相対的に財は安くなり、消費が減ることになります。

 

上級財は所得が増えると消費量が増える財で、主に高級品などが該当します。景気が上向いたり、ボーナス支給額が増加したなどの報道がされると、同時に高級ブランド品の売上が増加しているとも報道されます。これは、所得の増加がその財の需要を増加させることに他なりません。

 

上級財とは逆に、ギッフェン財は所得が増えると需要が減ります。景気が上向くほど要らなくなるということです。

 

ギッフェン財は、具体的にどの財がギッフェン財なのかという例はなく、現実に存在するかは議論の決着がついていない理論上の財です。

 

あくまで理論上の話なのですが、もしこれから値下げでの販促方法をお考えの方には一度値下げの恐怖を思い起こしていただきたいと思います。

 

もし、あなたの財がギッフェン財であるなら安さの訴求は逆効果です(無論、ギッフェン財かどうかは判断できませんが)。

 

値下げの効果が無かったり、むしろ売上を悪化させている場合は、安値を訴求する広告コピーを改めたり、販促手法(特に価格設定)を見直すことをお勧めします。

 

値段を上げることで需要量も増えるケースもあるのです。


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